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第五話 抱き合う兄と妹

作者: 雫石しま
last update 最終更新日: 2025-10-27 03:00:11

エプロンを腰に巻いてキッチンで洗い物をする健吾、ソファに身を沈め素知らぬ顔でテレビを見つめる七海。まるで滑稽な小劇場を傍観しているような感覚に陥った私は、情けなさと裏切りの重さでその場に崩れそうになった。だが、ショルダーバッグの中でかすかに擦れるマンションの登記簿謄本の重みが、私の足を踏み止めた。

この家は私のものだ。たとえ心が砕けても、これだけは守り抜く。私は気を取り直し、着替えをしようとベッドルームに向かった。だが、ドアを開けた瞬間、乱れたシーツの跡が目に飛び込み、胸が凍りついた。シーツの皺は、まるで昨夜の秘密を嘲笑うようにそこにあった。

私は慌てて踵を返し、ゲストルームへと早足で向かった。緊張でこめかみが締め付けられ、悍ましさで胸がざわついた。「……やっぱり」と呟く声が、震える唇から漏れた。ゲストルームのベッドは真っ新で、七海が眠った形跡はどこにもなかった。妻からのLINEを無視した夫は、夫婦のベッドで義妹と抱き合い熱い夜を過ごしていたのだ。

吐き気が喉を締め付け、私はトイレに駆け込んだ。冷たいタイルの床に手をつき、便器に蹲る。三年間の結婚生活が、一夜にして汚れた吐瀉物のように吐き出された。キッチンのシンクに立つ健吾からは、労りの言葉一つない。彼の不器用なオムレツも、ケチャップの真っ赤なハートも、全てが虚構だった。私は惨めさに涙した。涙は床に落ち、消毒薬の匂いと混じり合う。

「出ていって……」

七海がリビングからトイレを覗き込むと、訳が分からないという顔で首を傾げた。「どうして? ここはお義兄ちゃんのマンションじゃないの?」その無垢を装った声に、胸の奥で怒りが煮え立つ。

私は洗面所の冷たい水で顔を洗い、額に張り付いた髪を払いながら、ショルダーバッグからマンションの登記簿謄本を取り出した。紙の重みが、私の決意を確かに支えている。

「このマンションは私のものなの、だから一日も早くここから出て行って」

声を低く抑えながらも鋭く言い放った。七海の顔色がみるみるうちに青ざめ、黒曜石のような瞳が不安に揺れた。「じゃあ、私はどこに行けばいいの!?」と、彼女の声はかすかに震え、まるで追い詰められた子猫のようだった。「知らないわ、あなたの大好きなお義兄ちゃんに尋ねてご覧なさい」と、私は冷たく切り捨てた。彼女はテレビのリモコンをソファに投げつけ、まるで最後の拠り所を求めるように健吾の背中に縋りついた。キッチンのシンクで皿を洗っていた健吾の手が一瞬止まり、泡に濡れた指がフライパンを握りしめた。私は洗面所の鏡に映る自分の顔を見つめた。そこには、涙と疲弊に濡れた目があったが、その奥には揺るがぬ決意が宿っていた。三年間の結婚生活が七海の帰国で崩れようとも、この家だけは私のものだ。七海のすすり泣きがリビングに響く中、私は登記簿謄本を手に、再びドアノブを握った。この戦いは......まだ終わらない。

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コメント (1)
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もちむぎ玄米
長年隠れて不倫関係を続けてきた糞クズ下衆外道健吾と腹黒愛人七海には吐き気がするw!気持ち悪い!ゲロゲロ〜 マジ悍ましくて胸糞悪くて反吐が出る! ウッ!ウエッ!ゲロゲロ〜 もう苦しまないで冴子!負けるな! このマンションは冴子の持ち家なのだから、正当な立場で強気で、どんなに辛くても何を言い返してこようとも怯まずに揺るがずに進めー! こんなクズ下衆外道の汚らしい奴等を早く追い出してしまうんだー! がんばれ冴子!ファイトです!
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